シリーズで初めて「テンプル騎士団」の視点から描かれる異色作――それが『アサシン クリード ローグ』です。
本作は、シリーズ経験者はもちろん、単体でもしっかりと楽しめる作りとなっていますが、特に『アサシン クリードIII』や『IV ブラックフラッグ』をプレイ済みのファンであれば、より深く物語を味わえる仕掛けが随所に盛り込まれています。
本記事では、そんな『ローグ』をクリアした後に感じたことを、ストーリー・演出・キャラクターの観点から振り返ります。
■ テンプル騎士団からの視点で描かれる、裏切りと覚悟の物語
『アサシン クリード』シリーズといえば、アサシン教団の一員として「自由」の理念を掲げ、影から歴史に介入してきた主人公たちが中心でした。しかし本作では、テンプル騎士団――いわばこれまで“敵”として描かれてきた組織の立場から、ストーリーが語られます。
しかも、主人公シェイ・パトリック・コーマックは、物語開始時点ではアサシン教団に属する青年。
アサシンとして任務をこなす彼が、ある出来事をきっかけに次第に教団の理念に疑念を抱き、やがて仲間たちと敵対する――そんな裏切りと葛藤に満ちた展開が、本作の大きな魅力です。
■ 過去作との強い連続性と、思わずニヤリとする再登場キャラ
本作には『アサシン クリードIII』『IV ブラックフラッグ』など、ケンウェイサーガと呼ばれる一連の作品のキャラクターが多数登場します。
特に印象的だったのは、かつて『III』で老いた姿として登場したアサシン教団の長、アキレスの若き日の姿。
現役として教団を率いている彼の姿に触れ、物語がつながっている実感を強く味わえました。
また、『IV』で主人公エドワード・ケンウェイと共に戦った副官アドウェールも、今作では異なる立場で登場。
彼と対峙しなければならない場面は、長年シリーズを追ってきたファンにとっては感情を揺さぶられる展開でした。
■ アサシンから“アサシンハンター”へ――決断と決別の旅
シェイは、アサシン教団のある任務に疑問を持ち、やがて指導者アキレスと激しく衝突。
信じていた仲間たちとも決別し、アサシン教団の追っ手から命からがら逃亡します。
数奇な運命の中、彼が辿り着いた先が“かつての敵”であったテンプル騎士団。
この転身が意味するのは、かつての自分を否定し、今度はアサシンたちを狩る“アサシンハンター”として生きるという過酷な選択です。
戦いの中で彼は、かつて共に学び、戦った旧友たちと刃を交えることになります。
己の信念を貫きながらも、そのたびに胸を痛めていたであろうシェイの心情は、ゲーム中の演出からも色濃く伝わってきます。
■ ヘイザムとアキレス、因縁の始まりと“シリーズの終着点”
本作はケンウェイサーガ三部作の完結編と位置づけられています。その流れを象徴する存在が、ヘイザム・ケンウェイです。
『IV』では父エドワードの姿、『III』では息子コナーが主人公を務めた中、ヘイザムはこの三部作すべてに登場。
『ローグ』ではシェイと共に行動をともにし、テンプル騎士団側の立場を強く印象づけるキーパーソンとなっています。
やがて訪れるアキレスとヘイザムの因縁、それが『III』の物語へと繋がっていく構造は、まさにシリーズの完成形といえるでしょう。
『ローグ』をクリアした後、改めて過去作を振り返ると、細やかに張られていた伏線が数多く回収されていたことに気づき、唸らされます。
■ 正統進化を遂げたゲームシステム ― 海戦・クラフト・新武器の充実
『ローグ』は、基本的に『アサシンクリードIV ブラックフラッグ』のゲームシステムをベースにしており、海戦や船のカスタマイズ、探索要素といったシステムの多くが踏襲されている。
とはいえ、ただの焼き直しではない。
海戦に関しては、氷の海や砕氷船といった新たな環境ギミックが追加され、戦術に幅が生まれている。北大西洋を舞台にした航海は、視覚的にも新鮮で、没入感がさらに高まった印象だ。
クラフト機能も強化されており、動物の皮や資源を集めての装備強化、アイテム作成といった遊び方も健在。
また、新たな武器として導入された「エアライフル」は、無音で敵を仕留めたり、睡眠ガスを使ったりと、ステルスプレイの幅を一気に広げてくれる存在だ。
一見、大きな目新しさは少ないように思えるが、全体としては極めて丁寧な正統進化といえるだろう。
■ アサシンから“狩られる側”へ――迎撃ミッションの新鮮さ
特筆すべきは、主人公シェイがアサシン教団に追われる身であるという設定を活かしたミッションデザインだ。
従来のシリーズでは、プレイヤーは常に“襲う側”だった。だが、今作では突如アサシンに狙われる場面があるなど、逆の立場を体感できる。
街中で何気なく歩いていると、見覚えのあるフード姿の刺客が現れ、不意打ちを仕掛けてくる。
こうした緊張感のあるゲームプレイは、本作ならではの醍醐味といえる。
ただ一方で、ボス戦の演出についてはやや単調に感じる場面もあった。
多くの対決が“敵の逃走を追いかける”パターンになっており、手に汗握る一騎打ちを期待していると、若干の肩透かしを感じるかもしれない。
アサシンハンターとしての立ち位置を強調するための演出とは理解しつつも、「どうしてこんなに逃げ腰なんだ」と、アサシン教団の描かれ方に疑問を覚える場面もあった。
シリーズファンとしては、もう少しアサシンたちの強さや矜持も見せてほしかったのが正直なところだ。
■ 主人公シェイの葛藤と、ヘイザムの圧倒的存在感
物語の主軸は、「なぜシェイは教団を裏切り、敵対することを選んだのか」という一点に集約されていく。
任務で起きた惨劇を目のあたりにしたシェイは、教団の理念に疑念を抱き、指導者アキレスとの対立へと発展する。
その選択は、結果として仲間たちとの決別、そしてテンプル騎士団への転身という道を生み出した。
シェイの決断には筋が通っている。だが、プレイヤーとして彼の旅路を追っていると、その過程がやや性急で、アキレスとの和解の余地もあったのではという思いがよぎる。
そのため、テンプル騎士団視点のストーリーでありながら、全体的には「アサシン教団内の内紛」とも取れる構造になっており、もう一歩踏み込んだドラマを望みたくなったのも事実だ。
そして、シリーズでも屈指の存在感を放つ人物が、やはりヘイザム・ケンウェイである。
本作では彼が終盤に登場し、シェイと行動を共にするのだが、その言動・判断力・圧倒的なカリスマ性は、主役を食ってしまうほどだった。
『アサシンクリードIII』でも印象的だった彼を、いっそシリーズ通しての主人公として見てみたかった、と思わせるほどだ。
■ 実際にプレイしたユーザーの評価は?
多くのプレイヤーが本作に対して挙げる感想として、「シリーズの裏側が見えるのが面白い」「シェイの苦悩がリアルで切ない」といった声が多い。
また、「海戦が楽しくて時間を忘れる」「アサシンに狙われる緊張感が新鮮」という評価も目立つ。
一方で、「シェイの裏切りが急に感じた」「逃げるボスばかりで爽快感に欠ける」など、物語構成や戦闘演出に関する惜しい点を挙げるプレイヤーも少なくない。
しかし、シリーズファンであれば間違いなく“体験してよかった”と思える内容であり、ストーリーの深みや伏線の回収の巧みさは非常に高く評価されている。
■ まとめ:影に生き、影を断った男の物語
『アサシンクリード ローグ』は、単なるスピンオフではない。
アサシンの教義に忠実だった一人の男が、疑念と信念の狭間で苦悩し、自らの手でかつての仲間を討つという過酷な運命を選び取った物語だ。
彼の口癖である「運は自分で掴むものだ」という言葉は、どこか空しく響く。
なぜなら彼は、運命に逆らおうとしながら、運命に翻弄されてしまった存在だからだ。
それでも、シェイ・パトリック・コーマックという男は、シリーズの中でも異彩を放つ存在感を残した。
悲劇的でありながらも、静かな信念に満ちた彼の物語は、多くのプレイヤーの心に残るだろう。