一見ポップなビジュアルに騙されるな──。
『ザ・ロストチャイルド』は、イケメン主人公と美少女ヒロインが活躍する派手なRPGかと思いきや、実際には硬派なダンジョン探索RPG。
物語よりも育成と探索を重視した、コアなファン向けの一本でした。今回はそんな本作をじっくりプレイした感想をお届けします。
一見華やか、でも中身は硬派なダンジョンRPG
主人公・伊吹隼人(いぶきはやと)は、どこから見ても超イケメン。とても記者とは思えない派手な服装が印象的です。そして、彼と共に旅するのは、美少女かつ魔法使い風の衣装を着た天使・ルア。
この二人のビジュアルだけを見て「ポップ系のキャラクターRPGかな?」と早合点するかもしれませんが、実際のゲーム内容は正反対。古き良きダンジョン探索型のRPGで、神話や悪魔を題材とした重厚な世界観が展開されます。
神話をベースにした世界観、登場人物は全員“非日常”
このゲームの面白いところは、普通の人間が一人も出てこないという点です。主人公さえも“選民”という特別な存在として扱われ、家族や過去、人間関係といったバックグラウンドは一切語られません。
登場キャラの多くは、グロテスクな容姿の悪魔や、芝居がかった言動をする大天使など。プレイヤーの好みによっては「入り込めない」と感じるかもしれません。
物語の描き方もざっくりしており、選択肢による会話もあまり性格が見えてくるようなものではないため、感情移入のしづらさがあるのは否めません。
ヒロインのルアが非常に多弁で、結果的に彼女が物語の中心のようになってしまう場面も見受けられ、主従が逆転しているような印象を受ける場面もあります。
ストーリー性に期待は禁物。だが、ゲーム性は非常に中毒性あり
ここまで読むとネガティブな評価に思えるかもしれませんが、誤解しないでください。
本作の魅力は物語ではなく、ダンジョンRPGとしての完成度にあります。
神や悪魔といった“アストラル”と呼ばれる存在を仲間にし、好みのパーティーを組んでダンジョンに挑んでいく。
この単純明快なゲームループに、プレイヤーはじわじわとハマっていくことでしょう。
アストラルを仲間にして自由な編成を楽しめる
アストラルは討伐すればそのまま仲間にできる仕様で、交渉や複雑な条件は一切不要。序盤から上限の5人パーティーをすぐに組むことができ、その後も自由な入れ替えが可能です。
多くのRPGでは、序盤の仲間は後半使い物にならなくなることも多いですが、本作は違います。しっかり育成すれば、最初に仲間にしたアストラルでも最後まで主力として活躍できます。
自由な育成とハクスラ要素が絶妙
成長要素も豊富で、主人公やルアのステータス振り分けが可能だったり、装備を鍛え続けられるシステムなど、コツコツ育てる楽しさがあります。
装備品は基本的に敵のドロップ品であり、しかも効果がランダムで付与されるため、ハクスラ(ハック&スラッシュ)要素も強め。
「もっと強い武器を」「理想のオプションが付いた装備を」──そうして何度もダンジョンに潜りたくなる仕組みがしっかりとあります。
クリアまで遊んで思ったこと──選ばれし者に捧げる一本
エンディングまでしっかりプレイしてみて改めて感じたのは、「ザ・ロストチャイルド」は古典的なダンジョンRPGを、現代風に丁寧にブラッシュアップした作品だということ。
一度でもダンジョンRPGに触れたことのある人なら、「ああ、こういう機能が欲しかった」「この要素があったらもっと快適だった」と思っていたような痒いところに手が届く作りに、思わず「これは便利だ」と感じさせられる場面がいくつもあります。
その一方で、没入感のあるストーリー展開、印象的な演出、耳に残るBGMといった“情緒的な側面”はかなり希薄です。人によっては素っ気ない、味気ないと感じるかもしれません。
向いているのは、こんなプレイヤー
では、このゲームはどんな人に向いているのか?
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ひたすらダンジョンに潜りたい
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バトルを繰り返してキャラをじっくり育てたい
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レア装備のドロップに一喜一憂したい
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無駄を省いた、ストイックなゲーム体験を好む
そんな**“育成と収集に喜びを見出すプレイヤー”**にとって、本作は間違いなく時間泥棒となる中毒性を秘めています。
実際にプレイ中は「もう1戦だけ」「もう1フロアだけ」と気づけば時間を忘れて遊んでしまうシーンが多くありました。
まさに“選民”として選ばれた者──そういうタイプのゲーマーにだけ深く刺さる作りです。
メガテンファンにとってはどうか?
本作を語る上で避けて通れないのが、女神転生シリーズとの比較です。
実際、ゲーム全体にその影響が強く感じられ、ダークな世界観や神話モチーフ、仲間にできる悪魔・神々といった要素には、どこか懐かしさを覚えることでしょう。
ただし注意したいのは、メガテンにあるような“選択肢に伴う緊張感”や“尖ったキャラクターデザイン”、重厚なマルチエンディング展開などは、本作にはほとんどありません。一本道のシナリオで、キャラクターもやや個性に欠けます。
メガテンのような物語性や緊張感を期待してプレイすると、肩透かしを食らう可能性があります。
総評:この一本が試金石となるか
いろいろと辛口なことも述べてきましたが、個人的には「よくここまでまとめたな」という印象も強く、久しぶりにダンジョンRPGの世界にどっぷり浸かって楽しめた作品でした。
もしこれがシリーズ第一作としての試金石であるなら、十分に可能性を感じさせる意欲作。
次回作があるなら、ぜひともプレイしてみたいと思える内容です。