魔闘術師になるべく修行を積む少年・ロカは、ある日「クロノスの欠片」を取りに洞窟へと向かう。
欠片は、過去の世界を現代へと上書きする「時返り」の儀式に必要なものだった。
ところが、欠片を奪うために突然謎の男が現れる。
ロカは、幼馴染の王女サーナと共に、時を統べる「クロノス」の力を巡る冒険に足を踏み入れることになる…。●古きよきドット絵ゲーム
オーソドックスな2D・ターン制バトル、昔懐かしいドット絵グラフィックで楽しんでいただけるファンタジーRPG。●ダンジョンの謎解き
ダンジョン内には様々な仕掛けが存在しています。
スイッチや箱、壺、時には敵をも利用して、仕掛けを解いていきましょう。
失敗してもボタン1つでやり直せるので安心。●ジョブチェンジでどんどん強く
条件を満たすと、スキルや魔法を覚えたまま、ジョブチェンジをすることができます。
ステータスもある程度は引き継ぐので、チェンジするたびにどんどん強くなれるかも。
好みに合わせたキャラクター育成を楽しみましょう。©2012-2018 KEMCO/Hit-Point
「時返り(ときがえり)」という、過去をやり直す力を巡る設定――それを聞いただけで、RPG好きなら一度は心を惹かれるだろう。
そして、筆者もその一人だった。『クロノスアーク』というタイトルに込められた時間テーマの魅力、それが物語の核になると知り、「これは面白そうだ」と胸を高鳴らせた。
だが、残念ながらその期待は、プレイを進めるにつれてしぼんでいった。
最終的に思ったことは、「この作品、未完成というより“未熟”なんだな」という一言に尽きる。
■ 時返りという壮大な設定を、なぜこうも薄味にしてしまったのか
本作の物語は、「過去をやり直す“時返りの儀式”」に必要な“クロノスの欠片”を探す冒険を軸に進行していく。
その設定だけ見れば、過去改変によって運命が変わる、登場人物の選択が未来を左右する…など、プレイヤーの想像力を刺激するドラマが期待されるところだ。
ところが、実際に展開されるストーリーは、想像していた重厚さの“半分以下”。
いわゆる「時間もの」の作品にあるはずの因果のねじれや葛藤の描写は希薄で、表面的なテキストのやりとりだけが淡々と続いていく。
時間という大テーマを扱っているにもかかわらず、世界観がまるで広がっていかない。
まるで、大風呂敷だけ広げて、その中身を詰める前に畳んでしまったような印象だった。
■ キャラの“背景”だけ用意して“感情”が欠けている
設定が薄いなら、そのぶん登場人物に感情移入できれば、プレイヤーの興味を引っ張ることは可能だろう。
だが、本作はそこでもつまずいている。
主人公ロカ、王女で幼馴染のサーナ、そして途中で仲間になるアイドル少女――3人の関係性には、それぞれに悲劇や事情がある。だがその“深掘り”が圧倒的に足りない。
悲しい出来事が起こっても、それを語るキャラの口調は平坦で、イベントの流れも唐突。
共感や感情の高まりがほとんど得られず、まるで感情が通っていない人形劇を見せられているようだった。
キャラの数値的な成長はあっても、物語上の成長や内面の変化が見えないため、誰にも愛着を持てない。
せっかくのシリアスな展開も、プレイヤーの心に届く前に、どこかに空しく霧散していくのだ。
■ 敵キャラのクセが強すぎて「台無し」レベル
物語にスパイスを加えるはずの敵キャラクターたちにも、大きな問題がある。
とにかく、出てくる敵の“癖”が強い。個性を出そうとしたのか、やたらと奇抜な設定・性格付けをされているのだが、それがことごとく“安っぽい”方向に振り切れている。
真剣な展開の中で、ひたすら寒いノリや意味不明な行動を見せられ、緊張感もへったくれもない。
その結果、シリアスなはずの物語が「学芸会の演劇」のように見えてしまい、敵への怒りや恐れではなく、「なにこれ…」という冷めた気持ちばかりが残ってしまうのだった。
■ ケムコ作品の“親切設計”はどこへ消えた?
筆者は、これまでにもケムコのスマホRPG作品を何作かプレイしてきた。
どれも“スマホRPGとしては親切な設計”がなされていて、ストレスなく遊べる印象があった。
だが本作では、その良さがごっそりと抜け落ちてしまっていた。
まず目につくのが、戦闘バランスの悪さ。
序盤から敵の火力が異常に高く、レベルを上げてもなかなか楽にはならない。
中盤でクラスチェンジが解禁されてようやく戦闘が楽になるが、そこまでの道のりが苦行。
しかも、そのクラスチェンジを経て強くなった頃には、今度はこっちのスキル一発で敵を一掃できてしまうという逆バランス。
まるでRPGツクール初心者の試作品を見せられているようだった。
■ システム面も雑。ユーザー視点の欠如
細かな部分にも「詰めの甘さ」が目立つ。
たとえば、討伐数で得られる“マナ”を使って入手できる「経験値2倍」の装備。
これを装備して戦ってみたのだが、戦闘後のリザルト画面では経験値が全く増えておらず、「バグか?」と焦った。
しかし、ステータス画面をよく見ると、そこではきちんと加算されていた。
プレイヤーの混乱を招くUIや表示設計は、本来であれば最も丁寧に作るべきところだろう。
それをないがしろにしている時点で、「プレイヤーがどう感じるか」という視点が抜け落ちていると感じた。
また、ボス戦の突入タイミングが唐突すぎる。
ちょっと階段を下りただけで、セリフもなく急にボス戦突入→敗北→タイトル画面、という流れには、さすがに理不尽を感じざるを得なかった。
■ ダンジョンギミックの“押しつけ”感
ダンジョンには、パズル的な仕掛けも用意されているのだが、これもゲームテンポを大きく損ねる要因だった。
ギミックの内容自体は単純なのに、やたら時間を取られ、報酬はありがたみのない消耗品。
結果、探索する楽しさよりも、「面倒くさい」という気持ちの方が勝ってしまう。
演出や報酬面にもう少しメリハリを持たせていれば、これも立派なゲームの“アクセント”になったはず。
ただただ“やらされている感”が強く、心が離れてしまったのは否めない。
クロノスアークをクリアして感じたこと【光る部分はあるが、粗さが目立つ残念作】
■ 良かった点:ピクセルアートの演出や成長システムに可能性を感じた
● ドット絵のキャラクターが生き生きしている
まず最初に挙げたいのは、キャラクターたちのドット絵表現。
小さなキャラグラフィックながら、攻撃やスキル使用時にぴょこぴょこと動くその姿は、昔ながらのRPG好きにはたまらない魅力がある。
動作にメリハリがあり、見ていて楽しく、思わず微笑んでしまうような演出が随所に光っていた。
● ダンジョンではシンボルエンカウント方式に変化
通常はランダムエンカウントの本作だが、ダンジョンに入るとシンボルエンカウントに切り替わる仕様もなかなか面白かった。
敵の姿が見えることで、戦闘を避けながら進むか、あえて突っ込むかという選択が生まれ、単調になりがちな探索にちょっとした戦略性を与えてくれていた。
● BGMが妙に耳に残る
音楽についても触れておきたい。
全体的にミステリアスで不思議な雰囲気の曲が多く、特にフィールドやダンジョンのBGMはプレイ中ずっと耳に残っていた。
個性的なメロディラインと音の使い方に癖があり、これが本作独自の世界観を醸し出すのに一役買っていた印象だ。
● 強くてニューゲームに対応
クリア後は「強くてニューゲーム」が解放され、育てたキャラや装備を引き継いで最初から遊び直すことが可能。
やり込み要素としてはシンプルながら、もう一度試してみようかという動機になる作りで、長く遊びたいプレイヤーには嬉しい配慮だと感じた。
● 武器作成や強化の流れが気持ちいい
素材を集めて装備を作り、それを強化していくという一連の流れも、RPGとしての基本をしっかり押さえており、成長実感を味わえる部分だった。
「次はどんな武器が作れるのか」「この素材はどこで手に入るのか」など、小さな目標を立てながらプレイできるのは楽しかった。
■ 気になった点:難易度設計や細部の粗さにストレスが蓄積
● 序盤から難易度が高く、すぐ全滅する
もっともストレスを感じたのは、戦闘バランスの厳しさ。
序盤から敵の攻撃力が高く設定されており、油断すればすぐに全滅する。
初心者には優しくなく、何の説明もなくレベリングを強要される印象が強かった。
このあたり、プレイヤーの導線設計にもう少し配慮が欲しかったところだ。
● ナノ(ゲーム内ポイント)の取得量が渋い
モンスター討伐で得られる「ナノ」を使って便利なアイテムを入手できる仕組みはあるが、その取得量が全体的に渋め。
レアアイテムや経験値アップ装備など、必要ポイントが高い割にナノはなかなか貯まらず、モチベーションが削がれやすいバランスになっていた。
● 全滅時にタイトルに戻される仕様が地味に辛い
ケムコ作品では珍しく、本作では全滅後に即タイトル画面に戻されるという、非常にシビアな仕様になっている。
最近のRPGでは当たり前となっている「オートセーブ」や「リトライ機能」が存在せず、セーブのし忘れによって大きなロスを被るリスクが常に付きまとう。
「ちょっとした油断」で失う時間が多すぎるのは、ゲーム体験としてもマイナスだった。
● キャラクターデザインの癖が強い
好みが分かれる部分だが、立ち絵のキャラクターデザインにも違和感を覚えた。
特に一部キャラは立ち絵のバランスが悪く、画面を圧迫するような印象を与える。
立ち絵自体が“デカすぎる”ため、イベントシーンで視線の集中がうまくいかず、物語の流れを追いにくくなっていた。
● ゲーム設計が全体的に粗い
細部を見れば見るほど、設計の雑さが目立ってくる。
システム、バトル、ストーリー、UI……どの要素も全体的にあと一歩練り込みが足りず、「これで完成としたのか?」と疑問に感じる瞬間が何度もあった。
■ 総評:ケムコ作品らしさを感じさせない“らしくない”一本
ケムコRPGは、「価格以上の満足感をくれる作品」という印象があっただけに、『クロノスアーク』には正直がっかりさせられてしまった。
良かった点も確かにあったが、それ以上に粗さや配慮不足が目立ち、プレイヤーに対して優しくない作りになっていると感じた。
「もう少しこうしていれば」「この部分が丁寧なら」――そんな“惜しい”気持ちばかりが募る作品だった。
RPG好きとしては、時間をテーマにした設定そのものは魅力的だっただけに、より丁寧に作り込まれていれば、もっと印象は変わっていたかもしれない。