かつてないスケールで描かれる、アサシン教団の“始まり”の物語——
シリーズファンとしても、また一人のゲーマーとしても、忘れがたい作品になったのが『アサシンクリード オリジンズ』です。
本作では、アサシン教団の原初にあたる物語が展開され、その舞台はなんと古代エジプト。プレイヤーは主人公・バエクとして、家族への愛、そして復讐という強い動機を胸に、巨大な時代の渦の中に飛び込んでいきます。
アサシン教団の源流がここに──物語の重厚さが心に残る
「オリジンズ」の最大の魅力は、アサシンクリードシリーズの根幹にある“正義とは何か”を、これまで以上に深く掘り下げた点にあります。
物語は、家族を理不尽な事件で奪われた主人公・バエクの復讐劇から始まりますが、やがてそれは個人の恨みにとどまらず、国家の闇、巨大組織の陰謀、そして“自由のための戦い”へとつながっていきます。
この過程で描かれるのが、アサシン教団の原型ともいえる思想と行動の始まり。シリーズを長年追ってきた方には、胸が熱くなる展開が多々用意されています。
圧倒的なスケール感と美しすぎる古代エジプト
まず圧巻なのは、再現された古代エジプトの世界。ナイル川が流れ、巨大なピラミッドがそびえ、サハラの砂が果てしなく広がる……
そのどれもが緻密なグラフィックで描かれ、まるで歴史の中に入り込んだかのような感覚になります。
本作のオープンワールドは完全シームレスで、ロードを挟むことなく自由に探索が可能。かつてないスケールで作り込まれたマップには、主要都市、神殿、農村、オアシス、遺跡など、多種多様なロケーションが広がっています。
一方で、古代特有の風景が続くため、近代都市のような変化に富んだ景観を期待すると、やや単調に感じる方もいるかもしれません。しかしその分、時代考証の緻密さと世界の“深さ”に目を向けると、新しい発見が尽きません。
遊びながら学ぶ、古代文明の奥深さ
筆者は、正直なところ古代エジプトについて深い知識はありませんでした。
しかし、オリジンズを通して、当時の政治体制、宗教儀式、階級制度など、多くのことに自然と触れられたことは、非常に貴重な体験でした。
単なる“舞台背景”ではなく、そこに生きる人々の息遣いまで描かれているのが本作の真骨頂。
例えば、権力に翻弄される庶民の暮らしや、宗教にまつわる生死観、儀式のあり方などもストーリーに深く組み込まれており、それらを目の当たりにすることでゲーム以上の学びを得られる場面が多くありました。
バエクという男の物語が胸に残る
主人公・バエクは、シリーズでも屈指の“人間味”を感じさせてくれるキャラクターです。
復讐という目的を持ちながらも、民の声に耳を傾け、子供たちに優しさを見せ、時には怒り、涙を見せる。彼の行動一つひとつが、プレイヤーの感情と深くリンクしていくのです。
また、彼の妻・アヤとの関係性も美しく、悲しく、時に切なく描かれており、物語のドラマ性をより一層引き立ててくれます。
アクション性・育成・収集要素も充実!
オリジンズは、シリーズのアクションRPG路線への転換点とも言える作品です。
敵をロックオンしての近接戦闘や弓を使った遠距離攻撃など、シンプルながら戦術的なアクションが展開でき、装備やアビリティのカスタマイズも可能。
装備品にはレアリティが設定され、いわゆるハクスラ的な楽しみもあります。レベル上限に達したあとでも装備の強化要素が残されており、やりこみ派のプレイヤーにもうれしい設計です。
また、衣装やマウント(乗り物)にはユーモアあるものも登場し、重厚な物語の合間にほっと一息つける遊び心も健在です。
気になった点もいくつか
ただ、すべてが完璧というわけではありません。いくつか気になった点も正直に挙げておきます。
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エリアごとにレベル制が設けられており、自由に探索できるとはいえ実質的には“見えない壁”がある点は、やや不自由に感じることも。
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雑魚敵からボスまで戦法が似てくるため、慣れると戦闘が単調に感じられる。
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サブキャラの顔や動きに個性が乏しく、NPCがやや没個性的。
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シリアスな展開が多く、特に子供が犠牲になる描写など、気持ちが沈むシーンも。
これらの要素が気になる方もいるかもしれませんが、それを上回る体験を与えてくれるのが本作のすごさでもあります。
バエクという男が歩いた、変わらぬ愛と別れの旅路
アサシンクリード オリジンズ:家族の絆と復讐、魂の救済を描く物語
『アサシンクリード オリジンズ』を語る上で欠かせないのが、主人公・バエクの人生に深く根差した「家族の物語」だ。彼の旅路は、単なる英雄譚ではない。喪失から始まり、愛と赦し、そして再生へと至る壮大な人間ドラマが描かれている。
メイジャとしての誇りと、人間としての悲しみ
バエクは、エジプトにおいて“ファラオの守護戦士”を意味する「メイジャ(Medjay)」として生きている存在だ。これは単なる戦士や兵士とは違い、民を守り導く象徴のような存在。民衆からも畏敬の念を集め、信頼と尊敬を一身に背負う人物である。
しかし、そんなバエクもまた一人の父親であり、夫でもある。
物語は、彼が最愛の息子・カムを悲惨な事件で失ったところから始まる。そして、その痛みは心に大きな影を落とし、愛する妻・アヤとも心がすれ違い、別々の道を歩むことになる。
決して完全無欠ではなく、むしろ「傷を抱えた男」としての側面が強く描かれている。プレイヤーは、そんな彼の葛藤や苦しみを、旅の中でじっくりと追体験することになる。
魂の救済を求めて、バエクは砂漠を往く
広大なエジプトの大地を舞台に、バエクは息子を奪った者たちを追い、復讐を果たしていく。だが、それは単なる血の連鎖を描く物語ではない。
行く先々で出会う人々に手を差し伸べ、正義を貫こうとするバエクの姿からは、怒りの中にも確かな優しさと信念が垣間見える。その姿は、戦士というよりも“希望を託された父”そのものだ。
プレイ中、ふと立ち止まって地平線を見つめるバエクの姿には、家族への愛と救いを求める寂しさが宿っている。そんな彼の姿に感情を揺さぶられ、気がつけば「彼に救われてほしい」と、心から願っている自分がいた。
息子と妻との愛、そして別れ──静かに描かれる人間の深み
バエクとアヤの関係性も本作の大きな見どころだ。強い絆で結ばれていながらも、互いの目的の違い、想いのすれ違いが次第に距離を生んでいく。
この関係性は、ドラマとして非常にリアルで、安易なハッピーエンドでは終わらせないところにも、本作の重厚さがある。愛し合っていたからこそ離れる選択をする二人。その決断には、時代に翻弄されながらも自分の信念を貫く覚悟が感じられる。
プレイし続けられた理由は、バエクという人間の魅力に尽きる
正直なところ、アサシンクリード オリジンズはとてつもないボリュームだ。旅路の途中で、果たして終わりが来るのだろうかと不安になるほどの広さと物量がある。
それでも、最後まで夢中になってプレイできたのは、バエクという人物の人間味、そしてその生き様に引き込まれたからに他ならない。
古代エジプトという美しくも神秘的な世界を背景にした物語が、プレイヤーの心をしっかりと掴んで離さない。そして気が付けば、自分もまた“旅の一員”として彼と共に歩んでいたのだ。
【追記】シーズンパスも遊んでみたら、想像以上の大冒険だった
本編クリア後、余韻が冷めやらぬまま思わず購入してしまったシーズンパス。
正直、それまで他作品でDLCを買ったことがなかった筆者にとって、これは大きな賭けだった。
しかし、結果的にはその選択に一切の後悔はない。
シーズンパスで追加される物語は、単なる「おまけ」ではなかった。むしろ本編に匹敵する、いや一部ではそれ以上に濃厚で壮大な展開が待っていたのだ。
中でもインパクトが大きかったのが、冥界に足を踏み入れる展開。
「さすがにやりすぎでは…?」と最初は感じたものの、本編でもエジプト神話が多く取り上げられていたことから、すぐに違和感は消えた。
むしろ、幻想的な風景と神々が支配する世界を探検できるという、ゲームだからこそ可能な夢のような体験に、再び心を奪われた。
何より、DLCで描かれるのは“その後のバエク”の物語。
本編では語り切れなかった想いや、彼が歩んだ新たな道を追体験することができ、作品としての完成度をさらに引き上げてくれている。
【まとめ】
アサクリオリジンズは、「ゲームを超えた体験」をくれる傑作
『アサシンクリード オリジンズ』は、ただのアクションゲームでも、単なるオープンワールドRPGでもありません。
そこには、「家族を想う気持ち」「失った者への祈り」「正義とは何か」という問いが込められており、心を揺さぶる物語として仕上がっています。
古代エジプトというロマンあふれる舞台で、自らの魂を削りながら真実を求めて旅するバエクの姿は、多くのプレイヤーの胸に深く刻まれるはず。
もし、まだ未プレイであれば、ぜひ彼の物語に触れてほしいと思います。そして、プレイした方には、ぜひシーズンパスの冒険も味わってもらいたい。
そこには、本編のその先で、バエクがどのように生き、どこに辿り着いたのかという、もう一つの終着点が用意されています。