経営と戦争が融合!? これまでにない新境地を開いた意欲作
「メゾン・ド・魔王」というタイトルだけを見て、どんなゲームを想像するだろうか? 正直なところ、私は最初その内容がまったく想像できなかった。「魔王が主役」というフレーズからは、王道ファンタジーやダークな戦略ゲームを連想するかもしれない。
だが、実際にプレイを始めてみて、私の第一印象は良い意味で裏切られることとなった。本作は、魔王自らがアパートを経営し、入居してくる魔族たちと共に人間界を征服するという、前代未聞のシミュレーション×タワーディフェンス型ゲームである。
「世界征服のためにアパート経営!?」と誰もが思うであろうこの発想。だが、奇抜なだけでは終わらない。プレイヤーは経営者としての顔と、征服者としての顔を同時に求められ、そのバランス感覚がゲームプレイに絶妙な緊張感と中毒性を生んでいるのだ。
画面は一つ、しかしその中で世界が動いている
本作の舞台は、基本的にアパート一棟とその周囲だけ。見た目にはコンパクトな作りに思えるが、ゲーム内では時間が流れ、天候が変化し、周囲には新たな住まいを探す魔族たちがうろついている。まるで一つのミニチュア世界を覗いているような感覚に近い。
そこに、突如として人間たちの襲撃が始まる。アパートを拠点とする魔王の存在を脅威と見なした人間たちが、定期的に武装して攻めてくるのだ。つまり、のんびりした日常と緊迫した防衛戦が交互に訪れる。そのギャップが、画面に釘付けになるほどの魅力を生んでいる。
優しい難易度と温かみあるグラフィック
ゲームに登場するキャラクターたちは、敵味方問わずどこか愛嬌があり、全体的にファンシーな雰囲気で統一されている。戦闘と聞くと、どうしてもシビアな内容を想像しがちだが、グラフィックやBGMのポップさが緊張感を適度に和らげてくれる。
難易度も非常にマイルドで、ゲームに慣れてくると住人の生活をぼんやりと眺めるだけでも楽しめるようになる。そういう意味で、アクションが苦手な人や、シミュレーション初心者にも間口が広い作品と言える。
戦闘と日常が同時に進行する重み
だが、本作の真の魅力は「日常の描写」にこそある。
入居した魔族たちは、最初は一人でやってきて、やがて恋人ができ、家族が増えていく。そして子供が生まれ、ランドセルを背負って登校するようになる。一見すると、牧歌的で微笑ましいこの描写。しかしその裏では、人間との戦いが並行して進んでいる。
そして、戦いでは時に命が失われることもある。一度命を落とした住人は二度と戻らない。日常を共に見守っていた存在が消える喪失感は、決して軽いものではない。
この構造は、プレイヤーに「生きること」と「戦うこと」の意味を無言で突きつけてくる。撃退した人間たちにも命がある。だがそれを考慮していては魔王としての役割は果たせない。日常と戦争、その両方を背負う魔王の重みを、プレイヤーは否応なしに体感することになるのだ。
多彩な住人たちと個性豊かな要求
登場する魔族たちは、種類も豊富で個性も強い。最初からすべての種族が利用可能なわけではなく、ある条件を満たすことで上位種族が登場するようになる。また、入居希望者のなかには部屋の構造や設備に細かい注文をつけてくる者もおり、アパート運営には柔軟な対応が必要となる。
さらには、無職で収入のない魔族や、家賃を滞納する困った住人も存在する。まさに、プレイヤーは魔王であると同時に、リアルな悩みを抱える大家さんでもあるのだ。
それでも、こうした住人たちの暮らしぶりや悩みを見守るうちに、彼ら一人ひとりに自然と愛着が湧いてくる。このゲームは、住人管理やバトルの効率化を競うだけのものではない。そこに確かに「生活」があり、プレイヤーはその生活の一部を担うのだ。
混沌の中にある整然とした魅力
「メゾン・ド・魔王」は、見た目こそファンシーでユニークな印象だが、その実、中身は驚くほどよく練られたゲームだ。アパート経営と世界征服という相容れないはずの要素を、見事に一つのゲームシステムに融合させている。
プレイするほどに経営のノウハウが身につき、住人との交流や人間との戦いに奥深さを感じられるようになっていく。その過程で、気づけばこの異色のゲームの世界にどっぷりと浸かっているはずだ。
世界征服を企てる魔王でありながら、日々の営みを支える大家としても奮闘する。このユニークな二面性を、ぜひあなた自身の手で体験してみてほしい。